挙父 キョホ
挙父

 獣がいる。そのかたちは禺のようで模様ある腕と豹の尾(※)を持ち、よくものを投げる。名は挙父。  (西山経三の巻)--081
 
 
 
 
 

絵・文とも『山海経』より


 
 『山海経』でサルを表すのに一番多く使われているのが「禺」である。また、中国で多く見られるのはオナガザル科のアカゲザル(ベンガルザル)なので、無条件で禺といえば、古代中国人はおそらくアカゲザルのようなものを連想したのではないだろうか。現に上の挿し絵では、短尾・細面で耳の目立つサルが描かれている。これはのアカゲザルをモデルにしているせいだろう。

 しかし挙父の特徴には「豹の尾」とある。模様が豹とも考えられるが、長くてしなやかな尾というような意味だともとれる。アカゲザルの尾は 19〜31cm というから同じマカク属のニホンザルよりは長いが、豹に例えられるほどではないだろう。

 それに対して、東南アジアやインドで多く見られるコロブス亜科のラングール系のサルは豹のようにしなやかで長い尾を持っているのが特徴だ。おそらくそういった異国のサルを、「豹のような尾を持つ禺」と表現したのではないか。

 ラオスやベトナムに住むドゥクラングールは特徴的な毛色のために「斑入りザル」と呼ばれることもある。頭から背中にかけては青みがかった灰色をしていて、顔はピンク色で白く長い頬ひげが首のまわりまで覆っている。足は茶褐色で、手は黒く、尾は白い。また、腕の部分には真っ白な毛が生えているのも特徴的で、挙父の「文のある腕」を彷彿とさせる。
 

ドゥクラングール(斑入りサル)ドゥクラングール(斑入りサル)
 ラオス・ベトナムの熱帯雨林に広く分布。体全体は黒っぽいが、腕の肘から前と尻尾が白い。

 

 「模様ある腕と豹の尾」という部分は高馬三良氏の訳による。原文では「文臂豹虎」とあり、このまま読めば「腕に模様があり、豹か虎のようだ」という意味になる。
 前のページで紹介したソクソも足に模様があると言うが、何か関係があるのだろうか。

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