ゴウ
獣がいる。そのかたちは禺のようで腕が長く、よくものを投げる。名はゴウ。(西山経一の巻)--052
文は『山海経』より |
ゴウとは囂の異字で、やかましい様子のこと。鳴き方に特徴がありそうだ。また、腕が長いと強調しているところを見ると、囂はテナガザル科のサルかもしれない。 テナガザルの仲間は遠くまで響きわたる声で歌うように鳴く。これをグレートコールといって、一匹がはじめると仲間が次々に鳴き始め、しまいには大合唱になるという。 上野動物園にもシロテテナガザルのカップルが飼育されており、運がよければパワフルな夫婦節を聞ける。たった二匹であの迫力だからジャングル中が鳴き始めればさぞややかましいことだろう。 |
シロテテナガザル
東南アジアに広く分布。手は長いが尻尾はない。毛色が白いのと黒いのがいて、どちらも手が白い。 |
ちなみに、古代中国人ではテナガザルの両腕が肩のところで一本につながっていると考えた。右腕がのびると左腕が短くなり、左腕がのびると右腕がひっこむ。これはテナガザル特有の枝渡り(ブラキエーション)の様子を描写したものだろう。ちょうど、公園や学校の校庭にある「うんてい」をするときのように、手で枝にぶら下がって、体を揺すりながら渡ってゆくのだ。 なお、郭璞はこのサルについて「『畏獣画』の中にある。テナガザルに似てものを物を投げる獣」と注をつけている。『畏獣画』とは警戒すべき野生動物についてかかれた図鑑だというが現存はしない。残っていればゴウがどんな姿をしていたか手がかりになったのだが。 |
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