その他のおさるたち

 
カッカイ カッカイ
カッカイ
 獣がいる。そのかたちは人のようでいのこの鬣(たてがみ)を持ち、穴に住み冬眠する。名前はカッカイといい、その声は木を切るよう。これが現れるとその地方に大規模な人夫仕事が増える。(南山経二の巻)--013

絵・文とも『山海経』より


 
 人のようだというのでサルの仲間に入れてみたが、冬に穴ごもりをするサルというのもあまり聞かない。ヒトを除くサルの仲間でもっとも北に棲息しているのはニホンザルだが、ご存知の通り彼らは冬でも頑張って活動している。
 冬眠といえば熊の類とも思える。熊はサルほど人っぽくはないが、前足が器用なもので仕草が人くさく見えることもあるだろう。
 しかし、手がかりが少なすぎてサルとも熊とも特定はできない。

チョウユウ
長右

 獣がいる。そのかたちは禺のようで四つの耳があり、名前は長右という。その声は人がうめくよう。これが現れるとその地方に洪水がおこる。(南山経二の巻)--012
 
 
 

絵・文とも『山海経』より
長右

 
 ほとんど普通のサルだが、耳が四枚あるのがちょっと化け物くさい。『山海経』の挿し絵では、やはり細面でアカゲザルの面影が見える。

 現れると洪水が起こるというのは注目すべき点だろうか。『唐国史補』という本に、湖からサルが引き上げられた話がある。

 今でいう江蘇省の淮河で釣りをしていた猟師が、古い鎖を引き上げた。引っ張っても切れないので、役所に連絡してみんなで引いてみると、鎖の先に青[犬彌]猴がいて躍り出たと思うとまた水中に没した。あとで『山海経』を調べてみると禹が無支奇を殺した話があり、あのサルが無支奇だったとわかった。
 現存する『山海経』には無支奇なるサルは登場しないが、『岳[水竇]経』などによると、無支奇というのは洪水を起こすサルだそうで、中国の治水事業を成功させた禹という王様が、このサルを殺して湖に沈めたということになっている。そして禹は『山海経』の著者とも言われている。

 洪水をおこすサルを退治した禹の伝説は、石から生まれたサルを家来にして天竺へ行った玄奘三蔵の伝説と重なるのだが、それについてはまだまとめていないので、以下を読んでほしい。掲示板のログなので関係ない話も多いが、かなりよみごたえがあると思う。

◎珍獣のアレ「西遊記の源流は山海経にあるのか?


 
 
挿し絵はありません ユウアン

 獣がいる。そのかたちは禺のようで文のある体。よく笑い、人を見ると寝たふりをする。その名はユウアンといい、鳴くときに自分の名を呼ぶ。(北山経一の巻)--133
 
 
 
 
 

文は『山海経』より


 
 よく笑いというのは、鳴き方が笑い声ににているという考え方もできるが、サルが歯をむき出して威嚇する様子が笑っているように見えたのかもしれない。梟陽国人とカンキョの人の特徴と共通しているが、「笑い顔」で威嚇するサルはたくさんいるので、即ショウジョウの仲間とは言いにくい。
 それより、疑死行動(寝たふり)をするサルというのはいるのだろうか。

 
 
白猿(南山経一の巻--002 同じく三の巻--032 )

 南山経の中に二回だけ「白猿」が登場するが、単語だけで説明はない。
 たんに「白い猿」だと言うのだから、色つきの猿が突然変異で白くなって産まれたものかとも思えるが、郭璞によれば、白猿は、郭璞の時代に[犬彌]猿(テナガザルのたぐい)と呼ばれていたものよりは大きく、手も足も長くて敏捷であり、色は黒いものや黄色いものもあり、その鳴き声はなんともいえず切ないものだという。
 この説明を読む限り、ある種のテナガザルのことのように思える。たとえば東南アジアに棲むシロテテナガザルは体色が黒いものや白いものがあり、手足は長く敏捷で、グレートコールという大合唱をするので知られている。
 

 白猿といえば、唐の時代の武将が南方の桂林に遠征していたとき、白猿に妻をさらわれたと伝えられている。このとき妻は白猿の子供をみごもったが、その子は長じて有名な書家になったという。


 
 
 
サルを表す漢字

 『山海経』の中でサルを表すのに使われている文字は以下の通り。参考までに日本の漢和辞典に載っている意味を掲載するが、『山海経』の時代に同じ意味で使われていたとは限らない。とりあえず、漢字の本場中国にはサルを表す漢字だけでも多数あって、ひとつひとつに違うニュアンスがあることは把握しておきたい。
 なお、取りこぼしがあるかもしれないので、ここにない文字を見た方はご一報ください。

オナガザル
 漢和辞典をひくとオナガザルのこととあるが、『山海経』では無条件でサルという場合にこの漢字を使っているようなので、いわゆる尾の長いサルではなく、中国に多いアカゲザル(オナガザル科マカク属)のイメージではないかと思う。 
 ちなみに、オナガザル科のサルはみんな尾が長いわけではなく、尻尾の短いニホンザルもオナガザル科マカク属のサルである。
オナガザル
 禺と同じくオナガザルのことだが『山海経』での使用頻度は低く、中山経に1度登場するが解説はない。もしかするとラングールなど、本当に尾の長いオナガザルのことかもしれない。
テナガザル
 日本語だと、どのサルでもこの文字で表すが、特にテナガザルのことを言うらしい。
テナガザル
 猿と同じ意味の文字。小学館の『新選漢和辞典(新版)』によればこっちが本来の文字で、猿のほうが俗字だそうな。爰はものをつかんで引き寄せる動作のことで、木から木へ渡るときのテナガザルの様子をあらわしてる。
テナガザル
 漢和辞典には出ていない文字だが、おそらくテナガザルのこと。漢字は片(へん)で意味を、旁(つくり)で発音を表すが、応援の「援」を見てもわかるとおり、この文字の旁は「エン」という音を表している。そして、虫(蟲)は蛇や獣なども意味する場合があるので、「猿」と同じ意味の文字ということになる。
音読み : ショウ ソウ
訓読み : 

 どちらも同じ発音で、同じ意味である。
 犬の吠える声、赤い色などを表す。また、イタチのことを、猩ということもあるようだ。
 現代中国語では、猩猩と書いて、オランウータン科のオランウータンをさす。

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