珍獣の館TOP博物誌・目次直前に見たページ

和名 ヒロヘリアオイラガ(広縁刺蛾)
アオイラガとしていたものを、ヒロヘリアオイラガに訂正しました
別名 幼虫:イラムシ(刺虫)
繭:スズメの小便たご
中国名 青刺蛾
雀瓮(繭のこと、雀の水瓶という意味)
天漿子(繭のこと)
科名 イラガ科
学名 Parasa lepida
出現期 年 2 回 6〜7 月 8〜9月
食草 ヤナギ・カキ・クリなど様々な木の葉につく
採集地 東京都葛飾区
 
[イラガについての小難しいお話] [イラガについての掲示板のログ]


 
はいってます 1999年9月1日撮影
空き家 1999年9月1日撮影
 
 
 木の幹にくっついてる直径1Cmくらいのコブ。これはアオイラガというイライラっとした芋虫の繭(まゆ)なのです。人呼んで「スズメの小便ダコ」。スズメがひっかけたおしっこで木の幹にできたタコみたいだから、だって。

 左のはまだ使用中の繭です。右の写真はもう大人の蛾になって出て行っちゃったあと。中国ではイラガ類の繭のことを雀瓮と言うそうです。スズメの水瓶って意味らしいですよ。右の写真のように穴のあいた繭が水瓶に見えるんでしょう。

 実は、日本でも似たような呼び方をするんです。こないだ江戸時代の人が書いた本草学の本(※1)を図書館から借りてきました。薬になる植物や虫のことを書いた本です。イラガの繭も「スズメの小便"たご"」という名前で出てました。「たご」というのは「担桶」と書いて、天秤棒で担いで歩く桶(おけ)のことです。ガが出て行ったあとの穴のあいた繭が桶に見えるからです。

 もしかすると「小便ダコ」というのは「小便たご」がなまったものかもしれません。しかも珍獣様まわりでしか通用しないローカルな呼び名だったりして…あら、いやん。

※1『本草綱目啓蒙』というタイトルです。
 
 
さすらいのイラムシ 1999年9月13日撮影  
 
 中に入ってるのは、こーんなやつ。
 これはアオイラガの仲間で、ヒロヘリアオイラガってやつの幼虫です。イラガの仲間は刺がいーっぱい生えてるから、刺虫(いらむし)なんて呼ばれてる。

 かざりじゃないのよトゲトゲは。イラムシの刺は本当にぶすっと刺さっていたいです。ドクガの幼虫と並んであんたっちゃぶる芋虫・毛虫の代表格。

 
 
並んでお食事
1999年9月13日撮影

 おこちゃま時代には、みんな仲良く並んでお食事。たいていは葉っぱの裏っかわにくっついてます。ちょっとかわいいかも。
 この葉っぱはトネリコの葉。柿の木にもよくくっついてます。でも、いろんな植物を食べるようで、好き嫌いのなさではアメリカシロヒトリに匹敵しそうな感じです。

 
 
 珍獣は前にイラムシと袖触れ合ってしまいました。イラムシが服についていたのに気づかずに、かるく手が触れてしまったのです。何かに刺された感じがして、ふと見るとイラムシが服にくっついてました。
 刺された直後はどうということもありません。しかし、時間がたつうちに痛くなってまいりました。刺された傷は小さいのに、痛みはかなりはっきりしていて、思わず口をついて出たのは「山椒は小粒でヒリリと辛い」。

 何の虫にさされてもキンカンを塗っちゃう人がいるけれど、蛾の幼虫の毒は蜂とちがって酸性毒じゃないからアンモニア水じゃ中和できません。とりあえず水道水でじゃーっと洗い流しておくのが無難。痛みがひどいときは抗ヒスタミン系の薬が効くっていうけど、変な薬塗るくらいなら医者行ったほうがいいです。

 チャドクガの幼虫は大人になってもさわっちゃダメな虫だけど、イラガの仲間は大人になるとすっかり刺がとれて人畜無害になるそうです。

 
 

 
 何枚か皮を脱いで大きくなると、ひとりでご飯が食べられるようになります。葉っぱの美味しいところをすっかり食べてしまうと、新しい葉っぱを探しにさすらいの旅に出るのです。目的地はとなりの葉っぱだけどね。

 これは終齢幼虫なので、もうすぐ木の幹に張り付いて繭をつくります。
 薄緑色の翅をもった蛾になるはずだけど、親御さんのほうは見たことないです。

もうすぐ大人だもん 1999年9月13日撮影
 
 
僕たちいたいけなヒロヘリアオイラガなの
2003年7月11日
クリックで引いた写真

 芋虫や毛虫は何度も脱皮しながら大きくなります。上の写真はごく若い幼虫で、この時代はトゲはあんまり目立たなくて、体から角のような突起が何本も出ているのが目立ちます。

 
蛹にならなきゃいけないの、忙しいの
2003年10月1日

 何度か脱皮すると、このようなトゲだらけの物体になります。若い頃にあった角のような突起はあんまり目立ちません。ヒロヘリアオイラガの特徴は、オレンジ色の毛の束があることです。これはアオイラガにはないそうです。また、背中心の線が、アオイラガではもっと鮮やかな青い色をしています。

 
ひっくりかえしちゃイヤン
2003年10月1日

 うらっかえしてみました。ゴミがついててわかりにくいですが、右がわが頭です。オレンジ色の毛の束があるほうに頭があります。

 
そんなに見られるとはずかしい…
2003年10月1日

 頭のほうから写してみました。頭そのものは、体の下になっててよく見えません。豚の鼻みたいな黒い模様があるのは、頭じゃなく背中の一部です。
 

 ヒロヘリアオイラガは木の上で成長して終齢幼虫になると地面におりて歩き回ります。土の中で蛹になるのなら理解できる行動ですが、この虫は樹上で繭を作るので、わざわざ地面を目指す必要なんかなさそうな気がします。でも、終齢幼虫が集団で地面をはいまわっているのをよく見るので、地面になんらかの用事があるのだと思います。


似たもの情報
 イラガ科の幼虫で、代表的なものの見分け方をごく簡単に書いてみます。
イラガ イラガ
 子供用の図鑑や科学読み物なんか見ると、右のイラストみたいな写真が載ってることが多いかもしれません。こっちはイラガ(Monema flavescensで、アオイラガ・ヒロヘリアオイラガと同じイラガ科だけど別種です。

 イラガも毒毛を持ってて刺されると痛いです。繭は茶色と白のツートンカラーでモダンなデザインです。
 そんなに珍しいものじゃないですが、珍獣様のおうちのまわりには、なぜかあんまりいません。

  
アオイラガの幼虫
 全身が黄緑色で、背中心に青く太い帯があります。>google

ヒロヘリアオイラガの幼虫
 アオイラガによく似た黄緑色の刺虫ですが、背中心の青い帯がアオイラガより細く、色も鮮やかではありません。若幼虫のうちはに 4 本、尻に 4 本の突起がよく目立ちますが、老齢幼虫ではさほど目立たなくなります。このページにある写真はヒロヘリアオイラガの幼虫です。>google

 アオイラガとヒロヘリアオイラガは良く似ているので、よっぽど学術的なページでないと呼び分けていない場合もありそうです。うちも昔は写真の解像度が低いことを理由にずーっとアオイラガにしたままほったらかしてきました(爆死)。

クロシタアオイラガの幼虫
  体色は緑で、背中心にオレンジ色の帯があり、これをはさんで 2 本の青い斑文があります。頭に 4 本、尻に 4 本の目立つ突起があり、老齢幼虫でも目立ちます。突起にはトゲがありますが、ヒロヘリアオイラガにくらべると、トゲよりも地肌が目立つ感じです。
 アオイラガ・ヒロヘリアオイラガとは、見た目がだいぶ違うので簡単に見分けがつきます。>google

ヒメクロイラガの幼虫
 これはイラガの仲間でも上に紹介したものとは別の属に分類されているみたいなんですけど、似てるし写真もあるのでついでに紹介します。体は黄色っぽく、アオイラガほど刺が多くありません。全体に薄汚れた感じで、老熟すると黒っぽくなってくるようです。>google



ちなみに、毒のある毛虫は
 ドクガ科の一部(ドクガ・チャドクガなど)
 イラガ科の一部(イラガ・アオイラガなど)
 カレハガ科の一部(マツカレハ・クヌギカレハなど)
 マダラガ科の一部(ウメノスカシクロバ・タケノホソクロバなど)
 ヒトリガ科の一部(ヤネホソバなど)
といった面々で、中でも身近によくいるのは、チャドクガなどドクガの仲間と、イラガ、アオイラガ・ヒロヘリアオイラガなどイラガの仲間だけだと思う。それ以外はだいたい無害なので触って大丈夫(たぶん)。

 「でもやっぱり見分けがつかないわ」という人は、とりあえず「毛虫」には触れないように。いわゆる「芋虫」「青虫」のように毛のないやつは触っても大丈夫です。


親御さんの顔も見たい?